剣道の技 攻め 構え 溜め

完全なる竹刀操作(八木沢 誠)

2021年3月8日
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2016.10 KENDOJIDAI

八木沢 誠 教士八段

やぎさわ・まこと/昭和36年秋田県生まれ。秋田商業高校から日本体育大に進む。卒業後、助手として大学で研究活動を続ける。現在、日本体育大学教授、同大学剣道部長。

隙を捉えることが剣道

 剣道の運動形態は基本的には闘争的運動であり、一対一で直接的に技を競い合う対人競技です。そして、その技術は相手との相互作用の中で成り立っているもので、相手を想定しない個人の運動としての技術ではないといえます。

 さらには至近距離での攻防が主となるため、相手の変化は自己の変化を決定することとなり、その変化は形態的にも動作的にも極めて複雑であり、多様であって、相手との相互作用は無限とも考えられる広がりをもっています。ここに個人競技としての剣道技術の習得だけでは解決できない剣道の難解さが混在していると考えられます。

 全日本剣道連盟(以後「全剣連」と略す)ではその技術動作の構造を理論的に整理し、「基本打突の技術的要素」に関して、「剣道の打突動作を運動学的に捉えると、『構え』→『攻め』→『打突』→『残心』の一連の動作が完結することにより、その内容が有効打突として評価される」と説明しています。

 実際の場面においては、一連の動作の中で打突をより確実に行なうためには、互いに攻防を展開する中でわずかな隙を捉えて(或いは予測をして)瞬間的な打突をしなければなりません。よって、一方的に攻めたと思って(感じて)打突するのではなく、相手の心身の状態を正確に捉えた上で技を出す必要性があると考えなければなりません。

 つまり打突技術を構築する要素には全剣連の言う4つの運動学的要素に加え、「攻め」から「打突」の間に「捉える」といった心理学的な要素が介在し、重要な役割を担っていることを理解しなければなりません。そして「攻め」「捉える」「打突」を行なうには、自由自在に竹刀操作ができなければならないのは周知のとおりです。

攻めと竹刀操作

「攻め」を一口で言いあらわすことは大変困難ですが、ここでは便宜的に「打突動作を効果的に行なうための条件を整える目的で打突の機会をつくったり、打突の機会を見出したりする目的で気力や竹刀の操作・身体のさばきなどによって相手の心身のバランスを崩して隙を生じさせる動作」と規定した上でその中に含まれる要素について考えてみたいと思います。

「攻め」には一定の形はなく千差万別ですが、古くから「三殺法」や「三つの挫き」などという教訓があり、現代剣道においても大いに活用されています。

① 「剣を殺す:相手の剣の攻撃力をなくすこと。すなわち相手の構えを崩すこと」
② 「技を殺す:相手の得意技を封じること」
③ 「気を殺す:十分な気迫で相手を攻めることによって相手を消極的にすること」

「三殺法」は右のように解説されています。それぞれが別々に行なわれるのではなく、三つの立場から一体的に行なうことが理想とされています。

 一般的に剣先が利く・剣先が強い・剣先で攻めるなどというように、剣先は「仕かけ」の要ともいえます。笹森順造先生は剣先や竹刀の運用の仕方、働かせ方には以下のような方法があると述べられております。

① 付(つける):切っ先三寸ほどのところに互いに付けて、相手の心が竹刀に伝わってくるところを知る。表からも裏からも付けてみる
② 蝕(ふれる):軽く付けて先を左右に動かし、相手の心に触れてみる
③ 抑(おさえる):付けて斜め下。または左右に抑える
④ 打(うつ):竹刀で相手の目当ての部分を打つ
⑤ 張(はる):力強く短く張って、自分の切先を相手の正中線に付ける
⑥ 撥(はじく):張(はる)よりも少し長くはじく
⑦ 払(はらう):撥(はじく)よりももっと長くはらう
⑧ 打落し(うちおとし):力強く上から打ち落とす
⑨ 乗(のる):竹刀で竹刀の上に乗る
⑩ 巻(まく):竹刀で竹刀を巻く。右巻き、左巻きがある
⑪ 回(まわす):相手の竹刀のまわりを回す

 この他にも相手の竹刀に接触させない剣先の運用の仕方(高く付ける、低く付けるなど)は各々工夫されていることと思いますが、剣先や竹刀を通しての相手との関係は多くの要素を含んでいることから、常に相手との剣先の関係を疎かにすることのないように意識を集中させる努力をしなければならないと思います。

 この剣先や竹刀の運用の仕方、働かせ方が竹刀操作です。まずは、この使い方を理解し、身につけるように稽古を繰り返すことが大切です。

1・付(つける)
切っ先三寸のところに互いに付けて、相手の心が竹刀に伝わってくるところを知る
2・蝕(さわる)
軽く付けて先を左右に動かし、相手の心に触れてみる
3・抑(おさえる)
付けて斜め下、あるいは左右に抑える
9・乗(のる)
竹刀で相手の竹刀の上に乗る

打突の機会と竹刀操作

 剣道における「間合」とは空間的な「あいだ」、もしくは時間的な「あいだ」という意味を含んでいます。技術的に見ても試合がうまいという人は、「間合」の駆け引きがうまいと言われることが多いように感じられます。また構えとの関連から考えても、打突の機会は間合の駆け引きによって生じていることが明らかですから、「間合」は「攻め」の重要な要素として活用しなければなりません。試合や稽古では自分が打突できる間合、できない間合、相手から打突される間合、されない間合を知っておくことが大切であり、攻防場面では手先だけではなく、常に身体移動(足さばき)を伴わせて間合を測ることが重要となります。精神的には積極的に攻撃をする気持ちをもちながら、僅か1センチでも前に出て相手を攻める体勢を整えることが相手を攻めて崩すことに繋がるのではないかと考えます。

 そして、「攻め」から「打突」の間には「捉える」といった心理的な要素が介在すると述べました。

「捉え」とは「攻め」によって生じた相手の様々な心身の動き、バランスの崩れによって生じる「構え」の変化を「隙」として捉え、これを打突につなげていくべき機会として認識することです(図「捉え」の構造をご参照ください)。

 しかし、相手の変化は極めて流動的であり、瞬間的なものですから単純に相手の状態を見るだけでは十分とはいえません。相手の動きの見極め、読み、予測の能力を強く働かせながら、瞬間的にはしっかりと相手の状態を見取って対応するように心がけながら捉えることが必要となるわけです。

 そして相手の動きの変化が隙として現れたものを打突の機会として捉えたならば、自分の構えは攻め勝っている状態にあるといえます。この状態を極限まで保っておくことが打突の成功を保証することとなるわけです。

 よく「一足一刀」の間合に入ると勝手に「攻めた」、「打突の機会」だと勘違いをし、簡単に技を出してしまうことがあると思います。かく言う私もそうでした。

これは「打ち急ぎ」、「引き出された」、「攻め負けた」ようにしか映らない技の出し方です。相手との相互作用をより強く意識し、自分に最も適した「攻め」を工夫することが重要ではないかと思います。それには打突の機会を生み出す工夫が大事であり、巧みな竹刀操作を駆使し、「しかけ技」や「応じ技」を臨機応変に使えることが相手より優位に立つことにつながり、勝利が見えてくるのではないかと考えています。

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