剣道の技 足さばき

足さばき(古澤伸晃)

2020年10月12日
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2020.8 KENDOJIDAI

これまで高校、大学、警察と各フィールドで輝かしい成績を残してきた古澤錬士。現在は母校日本体育大学剣道部男子監督として学生とともに研鑽を積む。自身が研究・工夫を重ねている実戦に直結する足さばきとは―。

古澤伸晃錬士七段

ふるさわ・のぶあき/昭和56年熊本県生まれ、38歳。阿蘇高校から日本体育大学に進み、卒業後、皇宮警察に奉職。全国警察選手権3位入賞。皇宮警察退職後、日本体育大学大学院を経て、現在は母校日本体育大学スポーツ文化学部武道教育学科助教、同大学剣道部男子監督を務める。

踵が床につくと居つきに。 腰の上下動を極力少なくする

足さばきは、体さばきと密接に連動し、相手を攻め込んで打突したり、相手の打突をかわしながら打突したりするためのもので、 「一眼二足三胆四力」の教えの通り、重視されているのは周知の通りです。相手と構え合ったとき、どんな状況でも相手に対応しなければならず、前進や後退、開き足を使うときも踵を浮かすようにしています。踵を浮かす高さは左足指一本、右足は薄紙を踏むなど気持ち程度と言われていますが、実戦で踵が床に着くと居つく危険性が高くなります。重心を真ん中に置き、移動するときはなるべく腰を上下動させないように気をつけています。

足さばきは、一つ一つに意味を持たせて行なわないと、無駄な動きになってしまいます。咄嗟の相手との対応の中でもつま先で床の感触を確かめながらも自然に移動できるようにしておかなければなりません。そのため、一人で足さばきの稽古をするときも、気を入れて集中するようにしています。素振りが、眼前に相手を想定して行なうように、足さばきも相手を想定して行なうことで、日々の稽古に活かされるようになります。対人での稽古が自粛せざるを得ない今、集中して足さばきや素振りに取り組んでいます。

踏み切る時は左足で床を押す。 遠くに跳ぼうとしない

踏み込み足は送り足の応用であり、送り足を意識した足遣いをしないと正確な踏み込み足にはならないと考えています。脚力があると無理な態勢からでも届くかもしれませんが、加齢とともに無理はできなくなりますし、本学の剣道部員の多くは将来、剣道指導者になりますので、正しい踏み込み足を覚えてほしいと考え、指導しています。左足で踏み切る時は左足で床を押すようにして力を加え、右足は高く上げるのではなく、床と平行に前方へ運ぶようにしています。

つま先もなるべく上げないようにすることで、跳ぶのではなく、前に出ることを意識できるはずです。一足一刀の間合から打つことが難しければ最初は間合を近くして、まずは正確に打てる動作を覚えるようにします。踏み込むときの右足は膝の真下です。動作としては右足が動いて左足が引きつけられますが、感覚としては前述の通り左足で床を押し、その勢いで右足を前に押し出すようにします。踏み込み足の稽古は竹刀を持たなくてもできます。腰から移動する感覚を常に意識しています。

右膝を意識。 打ち間に入ったときは大胆に打ち切る

攻め合いや技のやりとりの中で、相手の備えが充分であったり、崩れのないところで技を出しても成功しません。自分から積極的に攻めて、相手の崩れや変化を誘発し、打突の機会を作ることが必要であり、攻めるときは緻密に足を動かし、打ち間に入ったときには大胆に打ち切ることを心がけています。打ち間に入ったとき、大胆に打ち切るためには足の備えができていないといけません。例えば、相手が引く気配を感じれば左足を継いで無理なく打ち切れるように調整しなければなりませんし、相手が出てくるようであれば、左足は動かさずに小さく鋭く打ち切らなければ、正確にとらえることはできません。

相手を攻めるときは左足の備えを充実させ、右膝を意識して動かします。相手が誘いに乗って出てくれば、そのまま出ばなを狙い、出てこなければ足を継いで、打てる態勢を作ります。足を継ぐことで相手が動くこともあります。また攻防の中で相手が攻め返してくれば細心の注意を払いながら間合を切ることもあります。実戦では緻密な駆け引きがあるので、このように単純にはいきませんが、打突を出すまでの駆け引きには足さばきが重要であり、常に意識しています。

約束稽古で出ばなをとらえる足遣いを覚える

剣道の醍醐味の一つは、出ばなをとらえることだと思います。相手が動こうとした瞬間をとらえることができれば、誰もが認める一本になります。本学の学生にも、このような機会をとらえる足さばきを覚えてもらいたいと考え、出ばなをとらえる約束稽古を実施しています。稽古法は掛かり手が間合を詰め、元立ちが呼応して間合を切り、さらに元立ちが攻め返そうとした瞬間に掛かり手が出ばなを打ちます。間合を詰めるときは、元立ちと呼吸を合わせ、本番同様の緊張感をもって行ないます。

両足の踵は床に着けず、いつでも対応できる状態にします。常に右膝を意識して攻め、技を出すときは最短距離で竹刀を操作し、打突部位を捉えるようにします。このとき、左足が残ってしまうと姿勢が崩れてしまうので、左足の備えを充実させ、左足で踏み切ります。1回の試合で有効打突を決めるチャンスはさほど多くはありません。実力が拮抗すればするほどそのチャンスは少なくなります。その少ないチャンスを確実に有効打突にすることが重要であり、その一つの機会が出ばなを正確に捉えることだと思います。

元立ちの足さばき ‌
左足を軸足にして振り返り‌素早く圧をかける

実戦では相手が打ち抜けた瞬間、こちらが向きを変えて追いかけていくことがあります。とくに警察剣道は攻守の入れ替わりが激しく、一瞬の気の緩みが命取りになります。打突し終わったあとは、三つの好機である技の尽きたところであり、普段の稽古からその機会を逃さないように指導しています。技の稽古では掛かり手が技を出し、元立ちの横を抜けていきます。このとき元立ちは方向を転換して再び掛かり手と向き合いますが、軸足を左足で行なうと素早く相手と対峙することができます。右足軸で回転するのと、左足軸で回転するのを比べてみれば一目瞭然です。

普段から左足を軸足にして方向転換をするようにしておくと、相手より早く対敵動作を整えることができ、それが本番では相手により早く圧力をかけることが可能になります。元立ちは掛かり手以上に気持ちを充実させ、向き合うことが求められますが、こうした小さな積み重ねが緊張感を持った稽古につながります。実戦では気を緩ませる暇はありませんが、日頃から詰めた稽古を繰り返さないと、本番で体力的にも精神的にもどこかで隙ができてしまいます。そのためには元立ちの左足を軸とした対峙の仕方が自分だけではなく、相手をも上達させる小さくも大きな要素となっていきます。紙一重の接戦を制するには、日頃から細部にまで気を配ることが大切と考えています。

撮影=西口邦彦
撮影協力=株式会社五感

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